大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)245号 判決

一 請求原因一ないし三は当事者間に争いがない。

二 そこで、審決に取消事由があるか否かについて検討する。

1 訂正事項1について

原告の求める訂正事項1は、本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の項の「回折格子レプリカの薄膜を細長く裁断して作つた多数の糸条を」という記載部分を「織物地糸と同じ程度の柔軟性があり継目のない回折格子レプリカの薄膜を細長く裁断して作つた多数のレプリカ糸条を織物のよこ糸またはたて糸として」という記載に訂正を求めるものであることは当事者間に争いがない。右のうち訂正事項1のの記載は、レプリカ糸条の性質、形状を限定する要件であると認められるから、実用新案法三九条一項一号にいう実用新案登録請求の範囲の限縮に該当すると解される。そして、訂正事項1のの記載のうち「織物地糸と同じ程度の柔軟性があり」という文言は本件考案のレプリカ糸条の柔軟性の度合を特定する要件と解されるところ、織物地糸の柔軟性の物理的数値を特定することが不可能であり、織物の種類によりその地糸の柔軟性は千差万別であることは原告の自認するところであり、被告もこれを争つてはいない。そして、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三によれば、本件考案の明細書の考案の詳細な説明中には、被告が主張するとおり、織物地糸とレプリカ糸条の柔軟性をどのように決定するのかについての記載はないことが認められる。原告主張の明細書及び図面の記載(1)(2)(3)はいずれも右の趣旨の記載とは認められない。従つて、レプリカ糸条が織物地糸とどの程度一致すれば同じ程度の柔軟性があるといえるのかを判断することができないから、「織物地糸と同じ程度の柔軟性」はレプリカ糸条の柔軟性を規定する要件として不明確であり、訂正後の本件考案の構成に欠くことができない事項ではないといわざるを得ない。そうすると、訂正事項1は全体として実用新案法五条四項、三九条三項、に違反する訂正に該るというべきである。

原告は、訂正事項1のの記載は、本件考案のレプリカ糸条を特定する要件として一体として判断すべきであるのに、審決が「織物地糸と同じ程度の柔軟性があり」という事項と「継目のない」という事項とを分け、後者について判断しなかつたのは違法である旨主張するので検討する。

訂正事項1のの記載のうち「織物地糸と同じ程度の柔軟性があり」という事項は、レプリカ糸条の性質を規定する要件であり、「継目のない」という事項は継目の有無というその形状、構造を規定する要件であつて、それぞれレプリカ糸条を規定する要件として独立別個の要件と解すべきであり、従つてそれらのうちの一つでも実用新案法三九条の規定に違反している場合には、訂正請求を拒否すべきことはいうまでもない。審決が「織物地糸と同じ程度の柔軟性」という事項についてのみ同法三九条の要件の有無を判断したことについて原告の主張するような違法な点は認められない。

更に原告は、訂正事項1のの記載のとおりに訂正すれば、引用例1の考案と区別することができるから訂正事項1のの記載は特定されているという趣旨の主張をする。しかし、引用例1記載の考案と本件考案とを区別することができるか否かは本件考案の新規性、進歩性を判断する上では重要なことではあるが、訂正審判においては、実用新案法三九条の要件を充足する必要があり、特に実用新案登録請求の範囲の項の記載は考案の構成を開示するとともに実用新案権の効力の及ぶ技術的範囲を定める基準となるものであるから、同法三九条三項の要件の存在を不要とする趣旨に帰する原告の右主張は、それ自体失当であつて採用できない。

よつて、訂正事項1についての原告の主張は、いずれも失当であり、審決に違法な点は認められない。

2 訂正事項2について

原告の求める訂正事項2は、本件考案の明細書三頁四行に「図面の実施例について」とあるのを「図面の実施例については織物地糸とレプリカ糸条とが融合一体、異物感が全くなく織機によつて織られているところを示すもので、以下」と訂正を求めるものであることは当事者間に争いがないところ、前記甲第二号証の一によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には前記の「図面の実施例について」に続き、「詳細に説明すると1は織物本体、2はこの織物を構成するたて糸、3は回折格子レプリカを細長く裁断して得た糸条(以下レプリカ糸という)でよこ糸として使用している。」(三頁四行ないし七行)という記載があることが認められ、この記載と同号証によつて認められる本件願書添附図面(別紙図面)に照らせば、前記「図面の実施例について」という記載はそれ自体不明瞭な記載とは認められない。従つて、訂正事項2は、実用新案法三九条一項三号の明瞭でない記載の釈明とはいえず、かつ、同条一項一、二号にも該当しないことは明らかであるから、同条一項各号に該当しないとした審決の判断に違法な点は認められない。

3 訂正事項3について

訂正事項3は、明細書四頁一五、一六行の「またレプリカ糸を織物のよこ糸またはたて糸として」との記載部分を「また織物地糸と同じ程度の柔軟性があり継目のないレプリカ糸を織物のよこ糸またはたて糸として、始めて織機にかけて織ることを可能として」と訂正を求めるものであることは当事者間に争いがないところ、前記明細書四頁一五、一六行の記載部分が明瞭でない記載とはいえないことは明らかである。しかも、前記二の1において説示したとおり、右の「織物地糸と同じ程度の柔軟性」という事項は「柔軟性」を規定する要件として不明確であるから、「継目のない」という事項が明確か否かを判断するまでもなく、訂正事項3は実用新案法三九条一項三号に該当しないといわざるを得ない。そして、訂正事項3が同条一項一、二号にも該当しないことは明らかであるから、その訂正を認めなかつた審決に違法な点はない。

三 以上の次第で、本件明細書について訂正を全部許されないとした審決の判断に誤りはないので、審決の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本件考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

回折格子レプリカの薄膜を細長く裁断して作つた多数の糸条を織込み、前記糸条の格子面に当つた光を分散させ虹光を放つようにしてなることを特徴とする織物

〔編註その二〕 本件における審決の理由の要点は左のとおりである。

1 本件審判請求の趣旨は、本件考案の明細書を請求書に添付の明細書のとおりに訂正するとの審決を求めるもので、その内容は、

(1) 実用新案登録請求の範囲の記載中、「回折格子レプリカの薄膜を細長く裁断して作つた多数の糸条を」とあるのを、「織物地糸と同じ程度の柔軟性があり継目のない回折格子レプリカの薄膜を細長く裁断して作つた多数のレプリカ糸条を織物のよこ糸またはたて糸として」と(以下「訂正事項1」という。)、

(2) 明細書三頁四行に「図面の実施例について」とあるのを、「図面の実施例については織物地糸とレプリカ糸条とが融合一体、異物感が全くなく織機によつて織られているところを示すもので、以下」と(以下「訂正事項2」という。)、

(3) 明細書四頁一五、一六行に「またレプリカ糸を織物のよこ糸またはたて糸として」とあるのを「また織物地糸と同じ程度の柔軟性があり継目のないレプリカ糸を織物のよこ糸またはたて糸として、始めて織機にかけて織ることを可能として」と(以下「訂正事項3」という。)訂正しようとするものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!